1型糖尿病患者を救う“人工膵臓” 自動インスリン投与システム アメリカで製品化

2017年6月、かねてより1型糖尿病有病者を救う”人工膵臓”として注目されていたMiniMed 670gが、米国内で製品化された。2016年秋のFDA承認の報に続き業界の注目を集める人工膵臓は、どのような機器なのか。

人工膵臓MiniMed 670Gがたどってきた進化の変遷とその課題点について見ていこう。

 

“人工膵臓” MiniMed 670Gとは


MiniMed 670G Hybrid Closed-loop systemは、米医療機器メーカー「メドトロニック」社が開発した自動インスリン投与デバイス。機器が使用者の血中グルコース量をモニターし、必要なインスリンを投与する比例積分デリバティブモデル(PID)に類する。血糖値計測から薬剤投与までを完全自動化したクローズドループ機構を有しており、多くの1型糖尿病患者の生活に光明をもたらす製品として注目され続けてきた医療機器だ。

  • 1型糖尿病の理解

そもそも糖尿病は、「1型」「2型」という二種類に大別されている。

1型糖尿病は膵β細胞が破壊されるために、自らの体内では血糖値を下げる働きを持つインスリンを作り出すことができなくなる。根本的な原因には、自らの自己免疫(リンパ球)の暴走や、それを誘発しうるウイルス感染暦が関係すると見られている。小児や若年者の感染が多いことから「小児糖尿病」とも称されるものの、英 テリーザ・メイ首相は56歳で発病したように、必ずしも若年性の病というわけではない。症状が出始めると急速に進行しやすく、また生活を続ける上では継続的なインスリン注射を必要とすることが一般的だ。

これに対し2型糖尿病、はもともと遺伝的に糖尿病になりやすい人が食生活・運動不足などを引き金として発病に至ることが多い、いわゆる成人病・生活習慣病に類する病気である。日本の糖尿病有病者の95%以上がこの2型糖尿病に属するため、一般に馴染みがあるのは後者と言えるのではなかろうか。

WHOが一昨年に公表した調査では、世界の糖尿病患者人口は2014年時点ですでに4億2000万人を超えるものだったというが、そのうち1型有病者はおおむね5%程度しかいないと見込まれている。1型糖尿病は有病者の少なさもあいまって、現代病として名高い2型糖尿病に比べると治療法の選択肢はまだまだ多くないのが現状だ。

  • MiniMed 670Gのメカニズム

MiniMed 670Gは、500円玉程度のセンサーと、MP3プレーヤー大の「インスリンポンプデバイス」から構成される。センサーが5分後とに血中グルコース量を測定し、その基本値を元に応じて、ポンプデバイスがインスリンをカテーテル投与するという仕組みだ。両機のグルコース量モニター機能は常に稼動しており、低血糖状態に陥った場合は直ちに投与が中断される。

手のひら大に納まる携帯性や、正確な量のインスリンを自動定期投与する正確性・利便性を備えることから、数多くの1型糖尿病患者を救う医療機器として注目されている。

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2016年 アメリカ食品医薬品局(FDA)による認可


2016年9月、同製品は123人の1型糖尿病患者を対象とした臨床試験をクリアし、アメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けた。

およそ3ヶ月に渡って行われた臨床試験では、この機器が持つ「安全性」に注目が集まったという。メドトロニック社が想定リスクとして挙げていたDKA(糖尿病性ケトアシドーシス)や、モニターの不良などに伴う重篤な低血糖症といった副作用は見られなかったそうだ。

糖尿病治療におけるインスリン投与で鬼門となっているのが夜間、就寝中の血糖異常である。今回の試験では、夜間投薬による睡眠妨害や起床時の血糖値低下なども見られず、睡眠中にも安定した数値を維持したという。

夜間は患者本人が眠っていることから、インスリン投与機器が発する血糖異常のサインに気づくことができないケースが見られる。本人や周囲の人間がこれに気づけたとしても、救急対応が可能な医療機関は限られてくる。この点において、ひとまずの及第点を示したMiniMed 670Gは、1型糖尿病有病者に自由をもたらす存在となり得よう。

人工膵臓MiniMed 670Gが抱える今後の課題


2016年のFDA認可では、同機器の「14歳以上の患者への使用」のみが承認されたものの、これは同時に“使用年齢に制限を設ける”ということを意味する。

FDA認可では、現行MiniMedの小児1型糖尿病向け利用が認められていない。子どもや若年層に多い小児1型糖尿病の打開策としては、まだまだ大きな課題が残される。現在メドトロニック社は、上記の14歳以上用MiniMedの製品化と同時に、7歳以上用製品の開発と臨床研究を進めているという。

また運動などに伴う血糖変化には対応できるものの、食後の急激な血糖上昇に対しては、依然として手動でのインスリン投与が余儀なくされるのが現状だ。1型有病者に完全な自由を与えるには、今しばらくの時間を要するだろう。

それでもこのMiniMed 670Gが有病者や業界全体に与える影響は計り知れないものだ。

1型糖尿病を有する人が安心して生活を送り、これまでは不可能だった生活習慣を取り入れることさえもできる。これは先進技術によって障壁を取り除くことに他ならない。

メドトロニック社は当製品のローンチ後も随時アップデートを重ねる計画を示した。今後も医療業界全体で注目したい話題である。

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はらだなう

Webメディア作る人. 編集と書き物、マーケティング. 映画のブログ『週末は映画とおいしいもの。(https://nowinthemovie.com/)』を運営中. 最初はながら見して、好きな作品は何度も見るタイプ. シンゴジラ10周目.

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